日本テレビからアップルへ。異業種への転職だからこそ、学べたこと – Yahoo!ニュース 個人

転職時の面接でよく使われる言葉は、次のようなものだろう。

「これまでの経験を活かして……」

これは熱意を感じる言葉ではあるが、とくに20代などの若いうちは気をつけた方がいい。転職先で、今までの経験を活かして頑張ろうなんて思ってはダメなのだ。

なぜダメかというと、新しい勤務先は、自分が今までいた環境・社風とは違う。場合によっては業種、職種、ビジネスモデル自体が異なる会社に転職する場合もありうる。そんなときに「過去の経験を活かす」と思うことは、野球の試合にサッカーボールを持ち込むようなものだ。そのくらいのつもりで、新しい環境に身を投じてみる方が、結果として「転職する」という本来の目的にフィットすると、私は思う。

たとえば、外資系の会社ではコミュニケーションが英語のことが多い。日本企業なら電話や顔を突き合わせての会議が当たり前でも、外資系の場合は日本支社だけでなく、世界中から24時間英語のメールが送られてくる。これまで日本企業では「とりあえずお会いして……」などという仕事の仕方が多かったが、アメリカやシンガポールにいる相手と「お会いして」とは簡単にいかない。そもそもの企業文化が異なるのだ。

私がアップルに入ったとき、当時の社長であった原田泳幸さんから二つのことをいわれた。

一つは、「アップルに入社して身につけたいものを5つ挙げなさい。ひと月も経たないうちに、5つのうち3つ4つは身につけるのはムリだということがわかる。それでも頑張れば一つくらいは身につくだろう。一つでも何かを掴めれば他のすべてがダメでも、その一つが次のキャリアにつながる」と。

こういわれたときに、私はすぐに疑問を持った。

「これからアップルに入社するのに、今いわれたことは、さらにその次のキャリアのこと? またすぐに転職することが前提なの?」

「アップルに定年までいることは絶対にないという意味なのか?」と。

これはアップルに限らず、外資系企業全般にいえることである。たとえ日本の企業であっても、いわゆる終身雇用制は崩れた。次のキャリアを見据えながら働くことはすでに一般的になりつつある。

もう一つは、「テレビ局での実績はわかった。ただ、日テレにいたときと同じことを同じやり方でやるなら、わざわざアップルに来た意味がないよ」と。

私が任されたのはAppleCareのCustomerCommunication部門。いわゆる「カスタマーセンター」や「ユーザーサイト」などの既存ユーザー向けの情報発信であった。日本テレビでやってきたマスメディアを使う広告やパブリシティ活動とはまったく違った。

10人ほどの社内のチームとは別に、社外には数百人体制のコンタクトセンターがあった。広い意味でのPR(ダイレクトマーケティングやCRMを含むパブリックリレーション)を

行うことになった。

これまでのアップルでは、比較的「狭く深く」のコミュニケーションが中心だったが、iPod発売以降、オンラインサポートも含めた「広く深く」のサポートが要求されるよ

うになった。

カスタマーサポートというのはやってみると面白いもので、ユーザーランキングなどで「ナンバーワン」を獲得することはそれほど難しくない。コストを度外視して「究極のサポート」を提供すれば、顧客からの評価は高まる。

しかし、当然、サポートの価格は見えない形で、製品価格や他のサービスとの天秤にかけられて、転嫁される。サポートが良くなる分だけ製品価格が上がってしまっては、必ずしも顧客のメリットにはならない。

そこで、電話や対面中心の修理や技術的なサポートと並行して、オンラインサポートを重視する舵取りを行うこととなった。また、この時期にアップルは延長保証制度(ACPP)を開始した。期間を延長できる代わりに別に費用を支払ってもらうというもの。さらに、iTunesなどの新しいサービスが定着しつつあった。

一部の専門的な人から支持されるコンピュータから、多くの一般ユーザーに支持されるデジタルデバイスのメーカーへとアップルは大きく舵を切った。

スティーブ・ジョブズは「Beyond the box」「デジタル・ハブ構想」といった言葉を使用したが、保証やサポートに対価を払う習慣があまりなかった日本人にどう受け入れられるのか、コミュニケーション上のチャレンジは多かった。

こうした経験が後々の自分の自信につながっていった。

何よりAppleユーザーの質と規模が大きく変化していった初代iPodの販売開始時期に「顧客の声」という現場の最前線を経験することができた。

結局、転職で大事なことは、新しい環境に身を置いたとき、今までの自分のやり方に固執することではなく、まずは真っ白な気持ちと柔軟な姿勢で新しいビジネスに飛び込んでみることだ。そうすれば多くのことを学び、それがあなたの「次のキャリア」につながっていく。それができずに「今までのやり方」に固執するのであれば、転職はある意味非常にリスクなことにもなる。この点には注意したい。

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