ハイブリッドクラウド時代に知っておきたいオンプレミスとの“適材適所”の考え方



 “クラウドファースト”という考え方が浸透する一方、一度クラウド上に置いたシステムをオンプレミスに戻す動きも見られる。ローソンのデジタル化を牽引するキーマンなどによるハイブリッドクラウドに関する議論が交わされた。

「多様なファクターを踏まえて検討すべき」–ビジネスから考えるITインフラの選定指針

 クラウドの活用が進む今日、なかには「どんなシステムでも、クラウドを使っておけば間違いない」と誤解している向きも見受けられる。クラウドはあくまでもITプラットフォームの選択肢の1つにすぎず、常にこれが最適解とは限らない。朝日インタラクティブが2017年7月に開催したセミナー「そのクラウド化計画は妥当ですか? 自社システムを棚卸して考えたいオンプレとクラウドの使い分け」(TechRepublic JapanとZDNet Japanが協力)では、IT基盤の最適化をテーマに、クラウドとオンプレミスを適材適所で活用するハイブリッドなIT基盤のあり方が示された。

ローソンデジタルイノベーション 取締役 サービスマネジメント本部長兼プロジェクトサポート本部長 溝端清栄氏
ローソンデジタルイノベーション 取締役 サービスマネジメント本部長兼プロジェクトサポート本部長 溝端清栄氏

 基調講演「ビジネス起点で観るハイブリッドIT」に登壇したのは、ローソンデジタルイノベーション 取締役 サービスマネジメント本部長兼プロジェクトサポート本部長の溝端清栄氏だ。大手コンビニチェーン、ローソンの戦略子会社であるローソンデジタルイノベーションは、ローソンのデジタル化推進、そしてローソンの次世代システムの設計や開発、導入、運用などに携わっている。そこで求められるITインフラ像について、溝端氏は「ただ1つの答えというものはありません。クラウドも積極的に使いますが、必ずしも一意に決められません」と話す。

ビジネス起点で観るハイブリッドIT--多様なシステムに必要なIT資源の選択(出典:溝端氏)

 その理由として溝端氏が挙げるのが、ITインフラの選定に影響する数多くの要因(ファクター)の存在だ。例えば、コストや構築スピード、データの量と粒度、運用の容易性、あるいはネットワークなどが主なファクターとして挙げられる。

 一般に、ITインフラを検討する際には、縦軸にミッションクリティカル性、横軸に柔軟性や導入スピードを置いた4象限で考えることが多い。これについても溝端氏は、「検討すべきファクターが数多くあるため、単純にミッションクリティカル性と柔軟性などの2軸だけで整理して判断するのは危険だと感じています」と指摘する。

ビジネス起点で観るハイブリッドIT--ポートフォリオを考える(出典:溝端氏)

 「ITインフラの選定に王道なし」を持論とする溝端氏の場合、コストをはじめとする各ファクターで基準を明確化し、それに沿って決めていくスタイルを採っているという。氏は最後に、「これからの企業は、ビジネス面の視点とデジタル(IT)面の視点の両側からの判断を下すこと、そうした能力を社内に育成し、社内のデジタル化を自律的、持続的に推進できる企業へと進化することを第一に考えるべきだと思います」とアドバイスして講演を締めくくった。

システムの特性に合わせて使い分けるべし—移行コストも考慮

 続くセッション「クラウドファースト時代の次世代ITインフラ最適解と選定ノウハウ」には、日本ヒューレット・パッカードの山中伸吾氏(HPEエバンジェリストリーダー HPE総合エバンジェリスト)と井上陽治氏(ストレージテクノロジー エバンジェリスト)が登壇。両氏はデジタル時代におけるITインフラのあるべき姿と、現在、注目を集めている同社のハイパーコンバージド・インフラについて説明した(同セッションの詳細については、レポート記事「クラウドファースト時代におけるITインフラの最適化とは?」をお読みいただきたい)。

 そして、最後に行われたパネルディスカッションには、前出の溝端氏と山中氏、井上氏、そしてITコンサルタントの千貫素成氏(Cスタジオ 代表取締役社長)がパネリストとして参加し、「これからのIT基盤に必要な適材適所の現実解を探る」というテーマで議論が繰り広げられた。

 このディスカッションで興味深かったのは、「トラフィックがある程度決まっている会計システムのようなシステムはオンプレミスの方がよいといった意見もあるが、実際にはオンプレミスとクラウドをどう使い分けるべきか?」という問いに対する各パネリストの回答だ。

 まず溝端氏は、単に会計システムやクラウドといったIT側の視点だけで捉えるのではなく、そのシステムが自社のビジネスでどのような価値を持つのかを踏まえて考えるべきとの見解を示した。

 「求められる機能が一般的なもので、なおかつシステム面で他社との差別化が必要ないのなら、SaaSも選択肢に入るでしょう。それならば、運用も含めてクラウドベンダーに任せられるので身軽になれるというメリットもあります。会計システムだから、どちらがよいという単純な話ではないと思います」(溝端氏)

日本ヒューレット・パッカード HPEエバンジェストリーダー HPE総合エバンジェリスト 山中伸吾氏
日本ヒューレット・パッカード HPEエバンジェストリーダー HPE総合エバンジェリスト 山中伸吾氏
Cスタジオ 代表取締役社長 千貫素成氏
Cスタジオ 代表取締役社長 千貫素成氏
日本ヒューレット・パッカード ストレージテクノロジー エバンジェリスト 井上陽治氏
日本ヒューレット・パッカード ストレージテクノロジー エバンジェリスト 井上陽治氏

 山中氏と千貫氏が指摘したのはマイグレーションの重要性だ。

 「クラウドを使っているからバージョンアップ作業から解放されると思われている方が少なくないようですが、実際にはPaaSやIaaSでも5、6年経てばバージョンアップ作業が発生します。そのマイグレーションコストまで含めて検討した場合、オンプレミスも候補になるのではないでしょうか」(山中氏)

 「マイグレーションを考慮することは重要です。オンプレミスでもクラウドでも、ライフサイクルをきちんと考えなければなりません。また、既存のオンプレミスの会計システムを無理にクラウド化しようというケースもあるようですが、これはナンセンスだと思います」(千貫氏)

 また、最近は企業でもクラウドネイティブなアプリケーションを作るケースが増えているが、井上氏は「どういったアプリケーションがクラウドに最適かを見極めるのは意外と難しい」としたうえで、「今後、クラウドとオンプレミスの適不適を目利きできることはますます重要になるでしょう。今はまだ、このスキルを持った方はあまり多くないと感じています。そのため、しばらくは試行錯誤が必要になるでしょう」と語った。

 このように、パネリストからはさまざまなアドバイスが得られたが、そこに共通しているのは「オンプレミスとクラウドの特性を踏まえた適切な使い分けが肝要」ということだ。読者が自社のITインフラを検討する際には、両者の使い分けやマイグレーションまで考慮したテクノロジ、プラットフォームを選定されるとよいだろう。



こんな記事も読まれています



コメントを残す