ソフトバンク孫社長、スプリント統合がまた破談でも強気な訳



孫正義社長は統合交渉中止について、「九十数パーセントの人には負け惜しみに聞こえるであろうことは分かっているが、心の底から晴れやかな意思決定をした」と語った Photo by Hiroyuki Oya

ソフトバンクグループ傘下の米通信大手スプリントと、米通信大手TモバイルUSとの経営統合が再び破談になった。孫正義社長が会見で語った交渉停止の経緯とは──。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之)

「米国は世界最大の市場で、通信インフラを手放すわけにはいかない」

 11月6日、東京都内で開催されたソフトバンクグループの決算説明会。普段は笑顔を絶やさず好業績や投資案件の魅力をアピールするはずの孫正義社長の表情はこわばり、声のトーンも沈んでいた。

 この日の会見の冒頭、孫社長は約20分にわたって、グループ傘下の米通信大手スプリントと、米通信大手TモバイルUSとの統合交渉中止について説明した。

 スプリントとTモバイル。この組み合わせは、2013年に約2兆円を掛けてスプリントを買収した当初から描いていた構想だった。

 米国通信市場は、ベライゾンとAT&Tがシェアの約7割を占める2強の地位を固め、残りをスプリントとTモバイルで分け合う2強2弱体制。下位2社を束ね「強いナンバー3」をつくることができれば2強に対抗できるからだ。

 スプリントの理想的なパートナーといえるTモバイルの買収は、14年夏に合意しかけた。ところが、立ちはだかったのが米連邦通信委員会(FCC)のトム・ウィーラー委員長だった。「4社の競争が消費者にとって望ましい」と統合に否定的な立場を取り続け、結局、14年8月に統合を断念した。

 そこから、赤字体質だったスプリントの自力再建という、ソフトバンクにとって試練の時期が訪れる。一方、この間にTモバイルは勢力を伸ばすことに成功した。

 契約の“2年縛り”の撤廃や音楽・ビデオの視聴無料化、データ通信量無制限プランなど、2強に真っ向から挑戦する「アンキャリア(脱通信キャリア)」と掲げたキャンペーンで顧客数を拡大。スプリントはTモバイルに抜かれ、米国4位へと転落してしまった。

 白紙になってしまった統合話が再度動きだしたきっかけは、16年11月のドナルド・トランプ米大統領の誕生だ。FCCの委員長には規制緩和派のアジット・パイ氏が就任し、「合併を前向きに受け止めてもらえるかもしれないという望みを持って、再度交渉に入った」(孫社長)。

経営権手放せない
最後の交渉は孫社長の自宅で

 だが、前回の交渉時と状況は一変していた。Tモバイルの時価総額はスプリントの約1.8倍まで増大。Tモバイルの親会社である独通信大手ドイツテレコムにとって、米国3位に浮上し、勢いのあるTモバイルは手放せない存在になっていたのだ。

 統合後の会社の経営権をドイツテレコムが握りたいという意向は、早期の段階でソフトバンクに伝えられていた。それでも交渉を続けたのは、「ほぼイコールパートナーという立場なら、選択肢としてあり得る」(孫社長)と考えたからだ。だが、ドイツテレコムは単独経営権という条件を譲らなかった。

 そして10月27日のソフトバンク取締役会。スプリントは単なる投資案件なのか。それともグループにとって戦略的に重要な企業なのか。スプリントの位置付けについて、激論が交わされた。

「スプリントの経営権を手放してまで合併すべきでない。5年後、10年後を考えると、それが正しいものの考え方だ」

 取締役会は全会一致で、統合交渉の中止を決断。終了後、孫社長はドイツテレコムのティム・ヘッドゲスCEO(最高経営責任者)に電話をかけた。

「(金額などの)小さな条件ではなく、経営権という根本的な問題だ。もう合併の話はなしにしよう」

 ただ、統合を望むヘッドゲスCEOは、対面交渉に最後の望みを託した。11月4日、福岡ソフトバンクホークスが劇的なサヨナラ勝ちで日本一を決めた試合の観戦を孫社長はキャンセル。そして、東京都内の孫社長の自宅にヘッドゲスCEOやTモバイルのジョン・レジャーCEO、スプリントのマルセロ・クラウレCEOら経営陣8人が集まった。だが、お互いに主張を譲らず、物別れに終わった。

「3年前なら焦って違う判断をした。ソフトバンクが強い立場になり、ゆとりある意思決定ができた」

 4年越しの統合構想が再度白紙に戻っても、孫社長は強気の姿勢を崩さない。今後、スプリントは4位から単独での巻き返しとなるが、グループ傘下に英半導体大手アームと米衛星通信大手ワンウェブを抱えていることを挙げ、「IoT(モノのインターネット)の時代を考えると、がぜん有利な立場にある」と主張する。

 その一方で、ケーブルテレビ大手など他業種との再編については「何でもありだ」と繰り返し、Tモバイルとの再交渉についても、「われわれが経営権を持てる、もしくはそれに近い形ならば門戸は常に開かれている」とも言及した。米国通信業界での地位を高められる、Tモバイル以上のパートナーは果たして現れるか。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら



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