富士フイルム、デジカメの主役を一眼から奪還するための秘策 古森重隆(富士フイルムホールディングス会長兼)特別インタビュー

ヘルスケア事業売上高1兆円の目標を掲げ、M&Aを強化する富士フイルムホールディングス。かつての写真フィルムメーカーから業容を大きく変貌させた古森重隆会長兼CEOに、次の「青写真」を聞いた。 (「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木洋子)

──武田薬品工業子会社の和光純薬工業を1547億円で買収しました。

こもり・しげたか/1963年東京大学卒業後、富士写真フイルム(現富士フイルムホールディングス)に入社。2000年代表取締役社長、03年代表取締役社長兼CEOに就任。12年6月より現職。 Photo by Masato Kato

 和光が加わることにより、再生医療で世界のトップランナーになれる。iPS細胞の事業では細胞の製造、培養に必要な足場材、そして養分となる培地の三つの技術が必要です。製造は、この分野で世界最大手の米セルラー・ダイナミック・インターナショナル(CDI)が傘下にありますし、足場材は写真フィルムの研究で開発した素材があったが、培地はなかった。和光はここに強い。今回の買収でiPS細胞の製造事業に必要な要素は全部そろいました。

 和光は試薬にも強く、当社が注力するインフルエンザなどの早期診断を臨床現場で行う体外診断薬事業などで協力し合える。販売面でも、当社の海外ルートと和光の国内の病院や大学などのルートを相互活用でき、技術・商品・販売全てでシナジーが期待できます。

──2008年に「18年までにヘルスケア事業の売上高を1兆円に伸ばす」という目標を掲げました。

 和光を足しても5200億円でまだ足りませんな。でも、諦めていませんよ。当然補う手段を考えている。一つはわれわれが仕込んだ薬の上市ですが、18年までには間に合わない。それから中国や東南アジアへの販売の拡大。先日、中国第二のコングロマリットの華潤実業と提携しました。いろいろな販売チャネルを持っているので、うちの製品や薬を販売できる。最後にM&A。現在の事業ポートフォリオでは診断機器が若干足りない。(入札に参加していた)東芝メディカルシステムズを買えればよかったんだけど、まあしょうがないわな。薬品事業なども含めて、あらゆる可能性を検討しています。

──東芝メディカルの入札ではキヤノンに敗れました。

 勝てると思ったんだけどね。東芝はすぐにも資金が必要だったから。先方の買収スキームは第三者に買わせるんだから公正取引の精神を形骸化させかねない。問題だと思うよ。われわれはそういうことはやらない、フェア・オープン・クリアがうちの企業理念なので。

デジカメの主役を
一眼レフから奪還する

──16年度第3四半期決算では、イメージング(映像)事業セグメントが前年同期比40%の増益になりました。

 10万円以上の高級ミラーレスカメラが好調で、このカテゴリーの当社シェアは30%に拡大しました。2月末にはフルサイズの1・7倍の大きさのセンサーを持つミラーレス中判カメラ「GFX50S」という戦略商品を発売しました。1画素数当たりのドットが大きく、画質が非常に優れた写真が撮れるんです。注文が殺到しています。

──京都の二条城で、古森さんが製品発表会見をしたんですよね。

 大政奉還が行われた場所でしょ。「あれがデジタルカメラ市場の主役が、35ミリ一眼レフカメラからミラーレスに代わる歴史的な転換点だった」と後に言われるようにする、という決意表明です。ミラーレスはデジカメ市場の中でも唯一伸びています。シャッターを切るときにミラーが揺れてピントが甘くなる一眼レフの欠点もないし、軽さや耐久性でも有利。今回中判カメラもでき、あらゆる撮影領域をカバーできるようになった。一眼レフにはもう負けません。

 うちのミラーレスは「物理的な自然の色ではなく人が脳内で認識している色に近づけるために、色の描画を強調する」などのフィルムで培った技術が画像エンジンに入っていて、フィルムの表現力を再現できる。これは他のカメラメーカーにはできません。

 映像事業では、ほかにもインスタントカメラ「チェキ」がコミュニケーションツールとして世界的に伸びているし、実はプリント需要も伸びている。当社推計によると、デジカメやスマートフォンの普及で、1人当たりが撮影する写真のショット数はフィルム時代の20倍になり、もはや整理できなくなっています。人工知能を使って数多くの写真の中から自動でフォトブックを編集しプリントするサービスを提供しており、これも伸びています。どちらも、昔からカメラとプリントの両方をやっているからこそできる事業です。

──写真フィルム市場の“消滅”とともに事業構造を変えてきました。今後、富士フイルムはどんな会社に変わるのでしょう。

カメラの話題には熱が入る。「デジカメはすぐスペック競争になるけど、写真の本質は画質。フィルムメーカーで色の描画を熟知してるウチは負けないよ」 Photo by Masato Kato

 技術の蓄積を基盤にしたコングロマリットです。現在の売り上げは複合機が約45%、映像が15%、残り40%が薬を含む高機能材料ですが、もうかっていれば事業の数は多くても少なくてもいい。M&Aは今後も行いますが、やみくもに売り上げや利益を上げるための買収はしません。うちの蓄積された技術と体験が生き、勝負できる領域をいかに広げるかです。

 再生医療は現状ではトップを走っていて、将来を懸けている。そして薬。当社のアルツハイマー型認知症治療薬「T-817」は日米で治験中で、期待しています。上市は早くてあと3年くらいかな。

──昨年4月に、後継者最右翼とみられた中嶋成博社長が健康上の理由で退任、助野健児取締役が後任の社長に就任しました。後継者育成についてはどう考えますか。

 持って生まれたものと、長年努力して築いた経験や能力、会社に対しての強烈な愛情、愛着が必要です。助野君は数字に強いし、前向きだしガッツがある。彼が育ったら、トップを譲りたいという気持ちはあります。こっちもそんなに長くやっていられないしな。打つべき大きな手をあと一つか二つ、打ってからでしょうね。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら


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