「通信の力で日本の医療を変える」、東京慈恵医大の高尾准教授(編集長インタビュー)

病院など医療の現場にICTを積極的に導入している東京慈恵会医科大学。3400台超のiPhoneを活用するモバイル先進ユーザーでもある。推進役の高尾准教授に医療ICT化の課題と今後を聞いた。

東京慈恵会医科大学では現在、3400台を超えるiPhoneを導入して、医師や看護師が医療の現場で利用している。経緯を知りたい。

高尾 洋之 Hiroyuki Takao

2001年、東京慈恵会医科大学卒業。2008年、東京慈恵会医科大学脳神経外科助教、2012年3月よりカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)神経放射線科リサーチアシスタントを兼任し臨床および研究に従事。臨床では、脳血管内治療を中心に脳神経外科医として活動。研究では、頭部外傷シミュレーションによる頭部外傷のメカニズムの解析、脳血流のコンピュータ解析(CFD)の臨床応用、脳動脈瘤計測ソフト「Neurovision」を開発。近年はスマートフォンを用いた汎用画像診断装置用プログラム「Join」(医療機器プログラムとして日本初の保険収載アプリケーション)や日常生活における救命・緊急対応を補助するスマートフォンアプリ「MySOS」の開発など多岐にわたる。2014年に厚生労働省 医政局 経済課 課長補佐 医療機器政策室長補佐 流通指導官として従事。2015年4月より東京慈恵会医科大学脳神経外科および先端医療情報技術研究講座を兼務、准教授。

 2007年にiPhoneが登場した時から、その存在には注目していた。当時、医療でICTと言えばパソコンだった。iPhoneは大きめのタッチパネルを備え、それを手元で見ながら、画像などを手で動かせることに大きな可能性を感じた。そこで早速に、まずは研究目的で20台を導入した。その後、それまで使っていたPHSを置き換える形で、2015年に大学が業務利用目的でのiPhone導入を決断してくれた。

 同じころ、ICTを医療に用いることを目的に、技術開発の基礎研究から臨床応用までを幅広く取り扱う先端医療情報技術研究講座の開設が決まった。NTTドコモの寄付によるものだ。それを聞いて、当時出向していた厚生労働省から大学に戻ってきた。

医療業務向けのモバイルアプリ「Join」をiPhoneに入れて活用している。どのようなものか。

 Joinは医師の業務や医師同士のコミュニケーションを支援することを目的に開発した。例えば病室にいる患者の様子や手術室の稼働状況を画像で共有してiPhoneから確認できたり、MR(磁気共鳴)画像を拡大して見たりできる。また、医師同士でセキュアなチャットが可能なSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)機能もある。これを使って、リアルタイムに専門医のアドバイスを求めることもできる。

 このJoinは東京慈恵医大に閉じたものではなく、月900円から利用できるクラウドサービスである。料金をこの値付けにしたのは、医療のICT化に向けて価格破壊を起こしたいという思いからだ。国内のほか海外でも利用実績がある。

医療のICT化、特に通信の活用となると、遠隔医療が話題になる。

 Joinを使って専門医師が他の医師の診療を支援するような遠隔医療の取り組みをDtoD(Doctor to Doctor)と呼んでいる。これに対し、医師が遠隔地の患者を診療する遠隔医療の取り組みはDtoP(Doctor to Patient)と言う。医師法では本来、対面診療が義務付けられているが、いまは厚労省の通知により、いわば拡大解釈で対面診療でなくても認められるケースがある。

 ただし遠隔医療の場合でも、現地で手術するのかしないのかといった最終判断を下すのは、あくまで現場にいる医師となる。そのとき、スキルを持った医師が遠隔から意見やアドバイスをできるようにするためにはJoinのようなコミュニケーションの仕組みが欠かせない。そうした仕組みがなく、医師と医師との間でコミュニケーションがうまくとれないまま、医師と患者とのコミュニケーションが重要になるDtoPに踏む込むことはかなり難しいと思っている。そこまずはDtoDに取り組んだ。

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